2010年1月23日

金工の埋蔵物 「湯床吹き」と「鍛金」をめぐって02

  金工の埋蔵物 「湯床吹き」と「鍛金」をめぐって02

先輩でもあり、鍛金のスジミチやRAVEPORTEで一緒に活動していた関井一夫さんの学術論文を本人の許可のもとに連続掲載します。



1. 2つの理路 「鍛金」の技法と名称

1-1.鞴祭と鍛冶屋の唄
金属加工を生業とする業界では、恒例として年に1回、鞴(ふいご)祭りという催し物が開かれる。これは稲荷大明神を守神 とする、火を用いる業種の儀式だが、大学でも職人業界の名残であろうか、毎年11月初旬に、輔祭が行われている。かつて 東京藝術大学では、その宴の中で「鍛冶屋の唄」が歌われてい た。

村の鍛冶屋
しばしも休まず 槌うつ響.
飛散る火花よ はしる湯玉.
鞴の風さへ 息をもつがず.
仕事に精出す 村の鍛冶屋.

「鍛金」と「鍛冶屋」という結びつきは、文字面としては自然なものであるが、東京藝術大学での鍛金では、銅を主な素材として、板金(いたがね)を「絞る技術」(1)を中心に教授されていた。
「鍛冶屋の唄(村の鍛冶屋)」は、鋤・鍬といった農機具を打ち鍛える、野鍛冶という、生活に密着した職納を歌ったものである。野鍛冶は、刀鍛冶とは異なり、武器を作る事が正業ではないが、鋤・鍬は刃物であり、刀鍛冶のように刃物武器を作る 事も可能であった。「鍛冶屋の唄」や「刀鍛冶の仕事」から受ける、金属を打ち鍛えるイメージからすると、「絞り」の仕事は、鍛冶屋仕事とはほど遠く、鍛金での「鍛冶屋の唄」には、どこか借り物のような違和感を覚えながらも「銅も叩けば硬化するのだから鍛えるのか?」程度に感じたものである。しかし「銅と鉄の金属組成の違い」という観点からは、どうにも納得できないものがあった。

註  (1) 金属工芸において、二次元の板材を、三次元の袋状の立体物に成形加工する技術

続く

出典:多摩美術大学研究紀要第20号 2005年掲載