2010年2月10日

金工の埋蔵物 「湯床吹き」と「鍛金」をめぐって08

金工の埋蔵物 「湯床吹き」と「鍛金」をめぐって08

先輩でもあり、鍛金のスジミチやRAVEPORTEで一緒に活動していた関井一夫さんの学術論文を本人の許可のもとに連続掲載します。

出典:多摩美術大学研究紀要第20号 2005年掲載


1-7.鉄は熱いうちに打て

金属は、叩くまたは曲げる(加圧する)事で、結晶面のすべりが起こり塑性変形し、この塑性変形と共に硬化する。これを加工硬化と呼ぶ。加工硬化した金属を加熱すると、再結晶し軟化する。これを「焼きなまし(焼鈍)」と呼ぶ。鍛金は、この加工硬化と再結晶軟化を利用して、成形する技法である。

再結晶温度以上での加工を「熱間加工」、再結晶温度以下での加工を「冷間加工」と言う。熱間加工では、加工硬化と再結晶軟化が同時に起こり、硬化は緩和されるので、大きい加工率を一度に与える事ができる。一般的に視認状態で金属を加熱して、赤色になっている状態は、金属温度として、各金属の融点の2分の1程度の再結晶軟化している状態であると言える。

鉄は、再結晶温度の状態で「面心立方晶」状態に組織変移しているので、可塑性に富んだ状態にある。そして金属温度が下がると、硬質な「体心立方晶」状態に組織変移する。

「鉄は熱いうちに打て」とは、「銅等は、単一結晶相なので、 熱間状態でも冷間状態でも、面心立方晶状態であるから、変形は容易である。しかし、鉄は熱間状態の時のみに、面心立方結晶状態にある為、大きく変形する事が可能になる。ゆえに“熱い=赤い”状態の時に加工しろ」という事なのである。


続く