2010年5月23日

金工の埋蔵物 「湯床吹き」と「鍛金」をめぐって21

金工の埋蔵物 「湯床吹き」と「鍛金」をめぐって21


先輩でもあり、鍛金のスジミチやRAVEPORTEで一緒に活動していた関井一夫さんの学術論文を本人の許可のもとに連続掲載します。

出典:多摩美術大学研究紀要第20号 2005年掲載

 3-8.伝承の検証・水深について

 熔融金属と水の反応として、水蒸気爆発が心配される。水深を3寸ではなく、3cmとして熔融銅を流し込んだ為に、蒸気爆発を起こしたという逸話がある。今回水深を約1寸として追加実験を行った。

通常は湯床を完全に水中に沈める為、湯床内の水は周囲から供給されるが、この実験では湯床内の水は湯床外から供給されないようにした(図26)。
図26 水深比較図解

熔湯の投入直後の瞬間に、熔融金属が暴れる状態はあったが、飛散する現象は起きなかった(図27)。

図27 水深1寸での投入直後の状態

しかし熔湯上の水は徐々に蒸発し消滅して、上面の冷却媒は途中から空気となった (図28)。
図28 湯床上の水分蒸発


断面は研磨するまでもなく、内部に発生した巣が確認できた(図29)。
図29  水深1寸の銅断面

今回は500g用の湯床に、400gの熔湯を投入したので、湯床の大きさに余裕があった。仮定であるが、この湯床サイズに対して熔湯量を多くした場合、熔湯上の水の消滅は、加速されると考えられる。湯床吹きでの水蒸気爆発の可能性は、限定された枠内の水量に対しての、熔湯の量によると考えられる。

熔融金属と水の反応で起きる水蒸気爆発は、大量の熔湯に対して少量の水で起きる。これは通常赤橙色に熱した鉄を、濡らした鉄床上で叩くと、バンッという爆発音をたてて、酸化被膜が飛び散る状態からも明らかである。

かつて、どの程度の量の熔湯を、湯床を用いて凝固させたかわからないが、水深の定義は、あくまでも限定された湯床内の熔湯上面の水深を、3寸確保すれば、爆発状態は起こらない、という事を伝えているのではないだろうか。