2010年7月11日

194-現実からの創作・富本憲吉「模様から模様をつくらず」06 最終回

鍛金家関井一夫さんの論文を連続掲載 します。

現実からの創作・富本憲吉「模様から模様をつ くらず」06

関井一夫 多摩美術大学工芸学科非常勤講師

出典:多摩美術大学文様研究室 [文様・デザ イン・技術]2005 より


結びに

富本憲吉の生涯の仕事を駆け足で見てくると、「模様から 模様をつくらず」という創造の信条・生業としての創作・写生からの模様創出と、いずれも現実の世界から物事を観て、 そこから理念を導き出す、言わば、理念と生活の中で懸命 に創作を続けた芸術家の姿が感じ取られてくるのである。

さらに、美術社会のための美術、もしくは工芸社会のための工芸という閉鎖的かつ観念的な社会ではなく、人間社会に関わる工芸を現実的に実践して来た、上澄みとしての、 温かくも凛とした作陶が観えてくるのである。

富本憲吉が、バーナード・リーチに宛てた書簡の中に「We are working very hard like Devil.(鬼のように働く)」 という句があるという。これは富本が素人同然から陶芸を始め、猛然と仕事をする実感を表したものとされている。 田村耕一氏の、昭和60年の日本橋高島屋での作陶展に際して、田村氏自身の書いた下記の短文がある。

エンマ様が
「君の職業は」
 ハイ
「陶器造りでした」
針の山の先の火の山を
さして
「そちらに」と
 私はまたまたここでも
陶器造りをさせられるのかと
悲しい顔をしたら
頭をぽかんとたたかれた

筆者には、このエンマ様は富本憲吉を指しているように思えてならないのである。

【参考文献】
「富本憲吉の陶磁器模様」富本憲吉記念館編グラフィック社
「東京美術学校の歴史」日本文教出版
「私の履歴書・文化人6」日本経済新聞社
「人間国宝の工芸一増田三男・内藤四郎・富本憲吉一身辺から生まれる美」うらわ美術館
「創造の手わざ・近代工芸栃木の七星」栃木県立美術館
「人間国宝の日常のうつわ・もう一つの富本憲吉」東京国立近代美術館
「第24回田村耕一陶展」図録