2010年4月16日

金工の埋蔵物 「湯床吹き」と「鍛金」をめぐって18

金工の埋蔵物 「湯床吹き」と「鍛金」をめぐって18

先輩でもあり、鍛金のスジミチやRAVEPORTEで一緒に活動していた関井一夫さんの学術論文を本人の許可のもとに連続掲載します。

出 典:多摩美術大学研究紀要第20号 2005年掲載


3-5.打ち延べに適した材料

板状の薄い金属を作る、または、更に複雑な形状に加工しようとした時に、鋳銅品のように凝固させた銅ではなく、打ち延べに適した銅材の必要が生まれた。

鋳造物では、合金が熔融から凝固に至る過程で発生するガスを抜く為に、砂を固めた型を用いる。ガスは細い砂の間から型外に放出されるが、金属内部に引け巣という空洞や組織内の細い孔が存在する。つまり内部は荒い組織になっている。この大小の空洞は、一般的に焼鈍を繰り返し打ち延べても、なくなるものではない。金属をくりかえし打ち、厚さが薄くなるにつれ、焼鈍時に孔内部の空気の熱膨張により膨らみ、その存在が成形上厄介な問題点となる。

打ち延べに適した金属は、内部の巣の発生が抑えられたものであるとも言える。打ち物に適した金属塊であるか否かの境目は、その金属の凝固の過程にある。

熔融金属は冷却する事で凝固するが、その為には、熔融金属内の熱を吸収する冷却媒が必要である。前述の鋳物の場合では、この冷却媒は型の原料である砂である。地面の上に熔湯を流した場合は、地面と大気が冷却媒である.湯床吹きでは、この冷却媒を水(湯)としたのである。

通常凝固の過程では、まず冷却媒に触れる熔融金属の表面部が凝固し、その後に金属内部が凝固する。液体状に熔融した金属が固体状に凝固する時に、凝固収縮という体積収縮が起きる。これは鋳造物で「引け」と呼ばれるもので、その結果鋳造物は原型より一回り小さくなり、また金属内部に引け巣という孔が生じる。表面が先に凝固するという事は、先に外枠が決定された後に内部が凝固し、体積収縮を起こすので、結果として内部に巣が発生するのである。すなわち、打ち延べに適した状態に凝固させる為には、表面と内部の凝固速度を近づける必要がある。


続く