2010年4月7日

金工の埋蔵物 「湯床吹き」と「鍛金」をめぐって17

金工の埋蔵物 「湯床吹き」と「鍛金」をめぐって17

先輩でもあり、鍛金のスジミチやRAVEPORTEで一緒に活動していた関井一夫さんの学術論文を本人の許可のもとに連続掲載しま す。

出典:多摩美術大学研究紀要第20号 2005年掲載


3-4.忘れられた技術

 湯床吹きは、その工程は伝承されていても、何故そのような方法をとるべきかという原理は伝承されてはいない。科学という概念すらない時代に、徒弟制度の中で伝えられた技術であるから、「何故」という疑問を持ったとしても知る由もなかったのである。また、銅材料製品として見るなら、金属自体の質には殆ど影響しない最終工程の技術である。科学的根拠も明確で、生産力に勝る西洋精練術が支配する中、発祥や伝承経路も定かではないこの技術は、おのずと研究対象にもならなかったのであろうか.

あえて製品としての特徴を挙げるなら、珍重されたという独特の赤色を持つ表面の亜酸化銅の色彩であろう。しかし、生産性を第一に置く近代精銅業界では、そのような好事家の対象になるような点は問題にもならず、いつしか歴史の中に埋もれていったのであろう。

ここで湯床吹き工程を紹介する。材料は現在市販されている高純度の電気銅片としている。湯床吹きは、以下のような工程で行う。

1 炉を造る。今回の炉は最も簡易的な七輪を用いて、補強と炉 の大きさを得る為に、耐火レンガを補助的に使用する(図11)。


2 鞴に代わり、コンデンサー付き電動ブロワーを使用し、風力を調整する。

3 燃料は、着火の為の炭と主燃料のコークスを用いる(図12)。



4 坩堝は、黒鉛坩堝を使用。脱酸材として、糠を菜種油で練ったものを坩堝内に貼り付ける。銅片は、半端になって処分するものを細かく切り溶融しやすくする。湯床は、銅板を円筒形に加工し、その内側に帆布を張る(図13)。


5 湯床は、金盥(たらい)にお湯を張った中に沈める。床から湯面までは 3寸(約9cm)。水温は45°C程度(図14)。

6 銅が熔解したら炉から出し、様子を見て一気に床に流し込む (図15)。


7 お湯をゆっくり攬絆し、凝固を待つ。

8 銅の吹き上がりを待ち、床ごと取り出す(図16)。





続く